大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和25年(う)1915号 判決

被告人

大原こう

主文

原判決中有罪の部分を破棄する。

本件を水戸簡易裁判所に差戻す。

理由

弁護人双川喜文の控訴の趣意について。

所論に鑑み記録を閲すると、原審においては、検察官の請求により証人日向寺とらを昭和二十四年十一月十九日茨城縣鹿島郡大同村大字大小志崎字小志崎六十二番地の同人方において尋問したが、その際被告人及びその弁護人堅野光正は共にその尋問に立会わなかつたこと明らかである。而して斯ように立会わなかつた被告人及び弁護人に対してはその証人の供述の内容を知り得る機会を与えなければならないことは、刑事訴訟法第百五十九條により明らかであり、之を与える方法としては刑事訴訟規則第百二十六條所定の証人尋問調書整理済通知を為すのみならず、更に刑事訴訟法第三百五條により、その尋問後の公判廷においてその調書を証拠書類として取調べるに当り、裁判長は之をその調書請求者に朗読をさせ、または自ら朗読し若しくは陪席裁判官か裁判所書記かに朗読させなければならない。然るに本件において原審は前記証人日向寺とらの尋問調書を原判決摘示事実第二の窃盜行為認定の証拠に供しながら、前述整理済通知書を被告人及び弁護人堅野光正に対し昭和二十四年十二月一日送達したのみで、その後の公判廷においてその取調請求者たる検察官をして朗読せしめるか、その他法定の朗読手続を履践し証拠調をなした事跡を見出し難い。従つて原判決は証拠となすことのできないものを証拠として事実を認定した違法があり、斯る訴訟手続に関する法令違反は、判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は所論の如く、この点において破棄を免れず、論旨は理由がある。そこで被告人の控訴趣意に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十七條、第四百條により原判決中有罪の部分を破棄し、本件を原裁判所たる水戸簡易裁判所に差戻すことにして主文の通り判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例